■朝日新聞|2016年2月9日(火)掲載

あしたのまち 2016草津市長選[中]
世代超え住民つなぐ 新しい「結」を求めて 迫る高齢化と人口減少

畳に横になったり、おもちゃを手にはしゃいだり・・・。
JR南草津駅前にある草津市市民交流プラザの和室に子どもの声が響く。 NPO法人「ナルクびわこ湖南」運営の子育て支援広場「ふあ・ふあ」だ。 60~80代のボランティアが週1回、季節の催しや紙芝居などをしながら、親子らと一緒に時間を過ごす。

「今、何キロ?ぐんぐん大きくなるなあ」。スタッフの渡辺日夫さん(75)が、そばに来た1歳の太田逸樹ちゃんを抱きあげた。 母の友里子さん(28)は「お年寄りとのふれあいがあっていい」と笑った。

JR南草津駅周辺では、1994年の駅開業や立命館大学のキャンパス開設などを受けて、宅地やマンションの開発が進んだ。 子育て中の親子の孤立化などが指摘され、2004年にナルクが広場を始めた。

4年ほど前からは、介護予防のための体操教室も始めた。体操を終えたお年寄りも輪に加わって、 親子らと交流を深めている。ナルクびわこ湖南代表の清水博一さん(73)は 「私たちも広場のみんなに元気をもらっている。幅広い世代が交流し、つながりをつくる場として工夫を重ねて、続けたい」と話した。

人口増が続く草津市にも高齢化と人口減少の波が迫っている。市の「人口ビジョン案」では、人口減少が13小学校区のうち2学区ですでに始まり、30年にも市全体で始まるとしている。 さらに第2次ベビーブーム期(1970年代前半)に生まれた世代が多いため、他の自治体に比べて高齢化のピークが遅く、影響が大きいと想定している。

子育て支援や高齢者の見守り、災害時の支えあい・・・。
対応していくには、地域コミュニティーの役割がますます重要になっている。
町内会の加入率は横ばいだが、町内会そのものがない新興住宅地やマンションもある。
地域を支える人と人とのつながりが希薄になりつつあるとの指摘は絶えない。

そんな中で、スマートフォンなどを通して生まれるつながりを生かす新たな試みも始まった。
1月中旬、スマホのアプリを使った見守りシステムの実験があった。
行方不明者が持つ発信機の微弱電波をアプリで感知。スマホから届く情報を集めて、 居場所を絞り込む仕組みだ。認知症の高齢者2人を探す想定の実験は、市民にアプリのダウンロードを呼びかけた上で、 スマホの情報を受け取るグループと受け取らないグループが4班ずつ、街に出て捜索した。

システムを活用した4班はいずれも1時間以内で高齢者役を2人とも見つけられた。
実験に参加した市内の運送業岡田英之さん(35)は「アプリの形なら、多くの人が協力しやすいと思う」と話した。 見守りシステムを開発したIT企業「ナスカ」(栗東市)の井上昌宏社長(55)は、助け合いの「結の精神」が、システムの原点にあると言う。

「社会の変化を踏まえて、誰もが手軽にコミュニティーの役に立てる仕組みをつくっていくことが重要だ」(八百板一平)

みまもり隊
滋賀ICT大賞優秀賞2017